認知症の母が覚えている昔のこと

認知症の人は、新しいことはすぐ忘れるけど
昔のことはよく覚えていると言います。

私の母も
今さっきのことすら忘れてしまうのに、

昔のこととなるとしっかり話せたりします。

認知症とは思えない話に
こちらがとまどってしまう時もあります。

調べてみると
失われていく記憶と長く残る記憶

そこには興味深い記憶の仕組みがありました。

今回は
母が覚えている昔の話とともに、
記憶の仕組みについてみていきます。

【母が覚えている昔のこと】

認知症の人が覚えている昔のこととは、
その人の人生における大事な部分なのかもしれません。

母が覚えている昔のこと

それは、守り伝えるべき田舎の因習と、
私が子供のころの家族の思い出でした。

テレビである観光地が紹介されていた時、
突然母が「行ってみる?」

さらに、「○○にみんなで行ったでしょ」と
昔のように家族で出かけたいという気持ちを言い表します。

「そうね、そのうちね」とりあえずの答え。

場面が変わって話が変わると
もうそのことは忘れています。

こんな家族の思い出もほとんど消えてしまいましたが、
守るべき因習は結構長く残っていました。

お正月のしめ飾りと鏡餅、おせち。

お盆の迎え火と送り火を焚くしきたり。

とくに強く覚えていたのは不祝儀のこと。

町内の○○さんが亡くなったと聞けば、
「香典用意しなくちゃ」と即答。

△△さん、□□さん、と
私の知らない地縁血縁の名前が出てきます。

田舎特有のつながりの深さがあるようです。

認知症の症状が進むにつれてそれらも徐々に消えてきていますが

母にとって大事なそれらのことを思い出した時は
目付きまで変わって、

しっかりしているような振る舞いに驚かされました。

それでも
昔の記憶が少しでも残っているのを知ると

「まだ大丈夫」と妙な安心感を覚えるのでした。

 

ところで

新しいことから古い昔のことへと、
順々に記憶は消えていくのですが、

その記憶の仕組みにも驚かされますので
下記からごらんください。


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【海馬の重要な働き 記憶の不思議】

人の記憶は大きく分けて2種類あると言われています。
“短期記憶”“長期記憶”です。

厳密に言えば
もうひとつ“感覚記憶”というものがあります。

感覚器官から受け取った情報をとりあえず記憶して、
重要でないものは4秒ほどで消えてしまい、

重要な情報とされたものは、短期記憶に組み込まれます。

さらに重要な情報は短期記憶から長期記憶へ送られます

このとき重要な働きをするのが“海馬”という場所。

新しい記憶は、まず最初に海馬に収納されます。
海馬の中で記憶は整理整頓され、

忘れ去ってしまうものと、
とどめておくものに分けられ、

重要なものが次第に大脳皮質に送られ
長く記憶されることになるのです。

これが海馬と大脳皮質

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認知症になって傷ついた海馬は、

短期記憶を収納することが難しくなり、
当然長期記憶を作ることもできなくなります。

認知症になる以前の長期記憶は残っていますので

新しいことは覚えられないけど昔のことは覚えている
という状況になるわけです。

また海馬は、
収納された短期記憶の中から長期記憶を作りますが、

脳の別の部分にある記憶から、
必要なときに必要な情報を瞬間的に引き出し、

状況に応じて分析するという役割も持っています。

たとえば急な車の飛び出しや落下物など、
突然の危険な状況にとっさに身をかわそうとする反応は、

海馬が正常に働いている証拠です。

海馬が損傷を受けるとこういった反応ができなくなります。

高齢者が交通事故を起こす理由のひとつですね。

 

ところで、長期記憶は、

頭で覚える“陳述記憶”と、体で覚える“手続き記憶”
の2種類に分けられます。

試験勉強で漢字や歴史年号を頭で覚えるのは陳述記憶。

泳ぎ方や自転車の乗り方など体で覚えたものは手続き記憶。

手続き記憶は簡単には忘れません。
何年後でもすぐに思い出せますね。

同じ長期記憶なのに、
陳述記憶より手続き記憶の方がしっかり残るのはなぜか?

それは記憶の保管場所が違うからです。

陳述記憶は大脳皮質、手続き記憶は小脳に記憶されます

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小脳は、体のバランスを保つなど運動機能を調整する働きと共に
体で覚えたことを記憶する働きもあります。

認知症になっても小脳自体が損傷を受けていなければ
それ以前と同様に手続き記憶を引き出すことができます。

認知症になって陳述記憶を次々に忘れていっても、

手続き記憶は長く保持している場合が多いのは
このような理由によります。

知れば知るほど不思議な記憶の仕組み。

まだまだわからないことが多いですが、
脳の働きを止めないことが大切ですね。


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